home  「最後の日本選手権」 by 長谷川 俊介

 前号の終わりに書いた通り、今回の大会は私にとって、初めての予選突破となった。
 十数年来参加し続けているが、名古屋予選も含めて、日曜日に本戦に止まっていたこと はないのだ。これまで、昨年のマスターシップ参加を除けば、日曜日といえば、午前中に 敗復を終え、はいえなのように獲物を物色することが全てであった。

 しかし、今年は違う。最後の年に、奇跡を起こすべくJBLの代表として堂々と参加す るのだ。神様は何かを私に望んでいるに違いない。
 作戦の立案は綿密に行ったつもりだ。

 まづ、土曜日の偵察から始める。
 誰が調子が良いのか、悪いのかを見極めることが重要だ。
 会場を巡回する。JBLのメンバーの活躍が目立つ。日頃の鍛え方が違う。しかし、田 端氏の様に、大きな大会に参加して、舞い上がっている人も数名見掛けた。ポイントマッ チに慣れることと、大会に慣れることとは、少し違うようだ。
 以前の私であれば、明日に備えて、下手な方が勝つ様に念力を送ったものだが、今年は 違う。
 バックギャモンは、所詮、ダイスのゲームであるので、良い目を出さなければ、勝てな い。良い目を出すには、ギャモンの神様に好かれることが、重要である。「下平休め。」 などと、人を陥れるようなことを念じてはいけない。声に出して叫ぶなど論外である。
 もっとも、JBLでのこの一年間の経験から、5ポイントマッチで勝率七割維持した者 がいないことから、トーナメントで勝ち残ることは、所詮、ジャンケンと同じようなこと で、わざわざ、念力の浪費をするまでもない。
 日曜日に備えて、早めに帰宅。

 本戦枠は三十二名である。五人勝ち抜きで優勝である。モナコがまっている。

 まづ、朝食作戦から始める。「カツサンド作戦」である。
 この作戦は、以前に下平氏主催で行われた、十一ポイントマッチ三番勝負トーナメント から採用している。私はその大会は惜しくも準優勝に終わったが、作戦の有効さは実証済 みである。王位戦でも使用した。
 五連勝するために、私は、二食分のカツサンド(勝つ三度)を食した。一勝分多かった が、これは、プライベートゲームの分として自分を納得させた。

 次ぎなる作戦は、「佳月作戦」である。
 優勝すれば、約四十万円のモナコへのフリーチケットである。皆を集めてお祝いをしな ければならない。
 「佳月」とは、下北沢にあるとても美味しい魚料理のお店である。ギャモンのお祝い事 は、この店で行われるしきたりになっている。最上杯の収益金は全部ここに吸い上げられ てしまった。
 日本青年館に向かう途中で、銀行に寄って、10万円を引き出し、宴会に備える。

 会場にて手合いを確認する。最初は南雲盤聖だ。
 彼には盤聖リーグで痛い目に会っている。まだ、当時は彼の実力を正しく評価できてな く、彼の風采とややゆったりとしたムーブ、それに、1ピップづつ数える姿をみて、油断 してしまったが、今回は違う。私は見破ったのだ。
 彼はゾロ目を出したとき、最初の三回はすぐにムーブできるのに、必ず最後の一回を1 ピップづつ数えるのだ。つまり、ちゃんとプレーできるのだ。1ピップづつ数えるのは、 彼の癖であって、分からなくて数えるわけでもなく、ましてや、嫌がらせでもない。
 正体さえ明らかになれば、ノープロブレムである。特に山場もないまま、一勝する。

 次は、立石氏である。彼はやる前から勝てる気がしないと言っていた。しかし、勝負は 時の運である。ここまで勝ち抜いてきたことは事実である。勢いがある相手は、誰であっ ても警戒しなければならない。取りあえず、二勝する。

 ベストエイトである。八人の顔触れを確認する。モナコは目の前にある。そろそろ、優 勝のスピーチを考えなければ。待ち時間が長かったせいか、そんなことを考えていた。
 三人目は、永井氏である。JBLでのこの一年間、彼の調子からして、よくここまで残 れたものだと関心する。侮れない存在だ。
 終始優勢なままゲームを進める。スコアー7ポイントマッチの5対3を迎える。薄いギ ャモンチャンスのある場面だ。このままギャモントライするか、それともキャッシュして 6対3とするか。クロフォードになれば、ギャモン負けさえしなければ、残り3ゲームの 内1勝するだけでよい。迷ったあげく、キャッシュした。
 これが裏目にでて、クロフォードゲームをギャモンで落とし、さらに、最終ゲームもラ ンニングで負けてしまった。明らかなミステイクだった。ギャモントライすべきだった。 逆転されても5対4になるだけで、有利なことには変わりないのだから。

 その後、敗者慰安戦で、高橋氏にサービスして、鷲見氏(なんと名大の後輩だった)を かわいがってやり、全てゲームを終了した。

 反省点はいくつもある。
 第1は、「カツサンド作戦」の失敗だった。朝から2食分も食べたせいで、胸焼けがし ていた。頭を使わなければならないときに、満腹は思考力を低下させる。
 第2は、自分の勢いを信じていなかったことだ。
 そして、第3はこれが最大の原因であるが、「佳月」へ予約の確認をしなかったことで ある。

                             完

 


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