home J.B.L.NEWS 96/12月号「11年前の研究を生かせた決勝戦」 by 1986年、1996年全日本選手権者 皆上 強志

 11年前の研究については、手書きのものをA4約20ページにまとめ、鷹嘴 さんのお手元にお送りしてあります。紙数が多く、見た目もあまり良くないので、会員の皆さんの強い要望がない限り、全文公開は難しいのでしょう。連載用に書き直すような時間もありませんので、決勝戦を題材に、研究のエッセンスをお伝えしたいと思います。

 今年の決勝戦は、表彰式を挟んでの進行になりました。再開までは、現王位の 山本さんに3−6でリードされ、苦しい展開でした。再開後、4−6で迎えた第8ゲームは、ともに相手のバーポイントを押さえたゲームとなりました。
 リードを許している私は、ギャモンになりそうなポジションに誘導し、早めにキューブを打って、4点を奪う展開を目指すべきです。
 そのために、インナをできるだけ早めに固めて、ヒットチャンスを待っていま した。


 そして、山本王位が66を振って、その瞬間がやってきました。上の図1 FINAL 96f01.pos が、そのポジションです。
1でヒットに成功し、さらに山本王位がエンターに失敗する可能性が約15% あります。
 下の図2 FINAL 96f02.pos のようになってしまっては、とても山本王位がテ イクするとは思えません。

 しかし、 図1では、ヒットに失敗する場合のほうがはるかに多いので、通常 のマネーゲームでは、イージーテイクになります。
 ここで私は、リードしている側は、キューブを有効に使えないことを思い出 し、確かめます。
 山本王位がダブルを受けたとします。しかし、通常のマネーゲームと違って、 山本王位は、4倍へのリダブルを慎重に打たなければなりきません。なぜなら、簡単に、そのキューブをさらに8倍にリダブルされるからです。
  将来、私から8倍へのリダブルをしたとすると、スコア6−8のマッチ勝率3 4%と比較して、山本王位は、勝率が34%以下のポジションになると、パスしなければならないのです。
 このことを考慮に入れると、図1のスコア状況では、決してイージーテイクで はないという確信が得られます。
 私は、ダブルをかけ、運良く1でヒットに成功してギャモン勝ちし、今度は、 8−6でリードする側となりました。
 次の第9ゲームは、私のギャモントライから、山本王位がアドバンストアンカ ーを作った瞬間にパッシングキューブを打ち、9−6のスコアとなりました。

 ゲーム開始前、私は、マッチ勝ちまであと2点となった時の、キューブプレイ の定石を思い出しておきます。
  理想は、ダプルをかけずに、ギャモン勝ちすることです。
 第2に、ギャモン勝ちがむずかしければ、相手のリダブルを考慮に入れて、最 も効果的なダブルをかけるチャンスを狙うことです。
 第3は、 ギャモン負けの可能性が少ないポジションでキューブを引いて、逆 転を狙うことです。
 第10ゲームが始まり、滑り出しは好調で、定石どおりギャモンを狙っていたの ですが、ミスムーブが影響してヒットされ、ギャモントライどころか、下の図3 FINAL 96f03.posのポジションでダブルをかけられてしまいます。

 まず、私は、ギャモン負けがなければ、ポジションの勝率が20%でテイクで きることを確かめます。
私がパスすれば、山本王位は、7−9のスコアで、マッチ勝率は、32%で す。
 私がテイクして80%の確率で8−9、つまり、山本王位のマッチ勝率40% のスコアになるとしても、やはり、80%×40%=32%ですから間違いありません。
 次に、私は、自分の目の前のポジションが、10年以上前に藤田名人から借り て読んだ本のポジションに似ていることに気づき、比較します。図4 REF_DC63.pos のポジションは、Xの勝率が確かちょうど25%でした。
 これと比較すると、図3は、レースは少し良い条件になっていて、Oの66、 55、65でダイレクトショットが残る反面、Xのボードが弱く、7の目でクローズアウトされてしまうので、ちょうど勝率は同じくらいと考えました。

 テイクする直前に、私は、同じ2away、5awayのスコア状況で迎えた、香港で の対下平戦を思い出します。
 図5の局面で、私は、マネーゲームならイージーテイク、このスコア状況でも テイクと直感的に思ったのですが、ギャモン負けの確率が30%以上あると勘違いして、パスしてしまい、結果的にマッチ負けの原因になりました。
 目の前の図3からは、明らかにギャモン負けの確率は5%もありませんし、勝 率が20%以下ということもないはずです。結論として、テイクした方が2〜3%くらいはマッチ勝ちの確率を高めるはずなので、自信をもってテイクし、運良く、このゲームを最終ゲームとすることができました。

   下平さん等の影響もあり、2年前から海外遠征をしていますが、戦果が得られ ず、窮地に追い込まれていただけに、ほっとしています。モンテカルロでは、ミスをしないよう心がけ、負け越しを取り戻したいと思っています。

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