home 「香港有り金勝負日記 」前編 by 金子 真一郎

 8月の間は、月曜から金曜までアルバイト漬けの日々を送った。定時に出勤して定時に退社。昼休みには、昼メロ見ながら噂話に花を咲かせる。まさに派遣OLそのものの生活が1ヶ月続いた。
 「来年は就職活動、学生最後の夏なのに…」とか言われつづけながらも、ただただ働きつづけた。たしかに、ひと夏を無駄にした。彼女という素敵なオマケ付きだが。それもこれもすべてこの旅行のため。そう10月1日から5日間、香港で行われるアジアチャンピオンシップのため。
 そうして作ったお金が15万。飛行機代の4万とホテル代を引いたら、5万か6万しか残らない。文字通りの有り金勝負である。十が一負けたら、温泉旅行もクリスマスも、いやちょっとしゃれた食事1回だって出来なくなってしまう。そんな自分を想像したり「行かなきゃチャラ、飛行機乗ればもうマイナス」という長谷川さんの言葉を噛み締めているうちに、なんだか出発するのが恐くなってきてしまった。 いつもながらの弱気の虫だが、そんな気持ちとはうらはらに「ちょっと出稼ぎに行ってくる」とか「落ちてるカネ拾いに行くんだから、それなりに経費かけなきゃね」なんて言葉を口にしていた。
  いよいよ出発、彼女と撮ったプリクラをダイスケースに張る。大事なお守りだ。成田を夜6時に発って約4時間のフライトで香港に着く。だんだん気分が乗ってくる反面、一緒にいった仁木の「観光しよう、食事行こう」って言葉がわずらわしくなってきたり、いつもより相当ナーバスになっていたんだなって思う。

   10月1日(水) 大会初日 サイドイベントスタート

 開場にたどり着くまでがひと苦労。いい加減にしか場所を聞かなかったので迷ってしまい、信じられないような坂を30分以上も歩くはめになってしまった。なんとか会場に着いて、エントリーを済ませたが、この日の筋肉痛は最終日まで治らないくらいひどいものだった。
 5日間といっても、実質は3日間の大会で初めの2日なんてオマケみたいなもの。初日は8000HK$(約11万円)のスーパージャックポットの予選がメインイベントであとは、ドラゴンスレイヤーという1ポイントのブリッツ(100HK$)が行われているだけ。はっきり言ってつまらん1日である。
 つまらん1日だったが、それがゆえに場慣れすることも出来た。始めのうちは英語がパッと出てこないは、大男のチェッカーを叩きつける動作にびびるはで、ドラゴンスレイヤーもあっさり2連敗。調子を取り戻そうと、無理矢理始めた仁木とのマネーゲームすら負けてしまう。いまだ片目開かず。不機嫌ついでにジャックポット(5ポイント・200HK$)とドラゴンにもエントリー。
 なんとか、両方勝てて落ち着きが取り戻せたが、冷静になったと同時にもう500HK$も使っていることに気付く。日本円じゃこんなペースでは使えない。その後も調子良くドラゴンで3連勝。売れない絵描き風の男をマネーでかわいがって、この日は終わり。ブライアンはスーパージャックポットの予選を抜けて絶好調。

この日の教訓 海外の紙幣なんて子供銀行券みたいなもの

  10月2日(木) 大会2日目 西野登場

 ということで大会2日目。だいぶ雰囲気にも慣れてきた。この日、西野や大阪の沼沢さんと景山さんも登場。景山さんとは初対面で握手を交わす。そういえばバックギャモンを始めてまだ1年ちょい。これを読んでる方の中にも会ったことのない方が多いのかもしれない。まあ、文書の通りのチャラチャラしたやつなんで、気軽に話し掛けてください。
 この日は会場にはほとんどいず、香港競馬に挑戦した。香港の競馬は1〜3着までの着順を当てる3連単や、3着以内に入る2頭を当てれば良い馬券などバラエティに富んでいて面白い。3着以内に入る2頭を当てるということは、1着3着や2着3着でも当たりということで、普段これに泣かされている僕にはピッタリの馬券だ。そう思って2レースやってみるが、ともに1着4着で外れ。3着までオッケーなら4着の馬を買う。我ながら並みの才能ではないなと思う。
 やけになって、会場に戻って500HK$のブリッツにエントリー。何とか2連勝してこの日は終了。景山さんもスーパージャックポットの予選を通過。なんかすごいことになってきたぞ。

 10月3日(金) 大会3日目 いよいよスタート

 いよいよ今日から本番である。気合いが乗ってきて、観光なんてますますどうでも良くなってくる。一緒に行った仁木は結構悲惨だった。申し訳程度に、アウトレットを数軒のぞいた後に、吉野屋の怪しげなランチセットを食べて会場へ。
 会場に着いてすぐ、下平・鷹觜両氏登場。2人の、とくに下平さんの人気?と知名度には驚かされる。「多くのトーナメントに出て多くの友達を作って、世界に認められるプレーを出来るようになりたい」なんて殊勝なことを珍しく考えたりもした。
 そうこうしているうちに夕食に。この日は簡単なパーティーがあったが、みんな旧交を温めつつも、オークションの値踏みを始めているようであった。ふと見ればポールは食ってばっかり。
 やることがなくなって、西野と他愛のないおしゃべりをして時間をつぶす。10分後に、ポールが新しい皿を山盛りにして目の前を通り過ぎる。確認しただけで、皿5杯にコーラ3杯。ギャモン抜きにしても立派な化け物である。
 そうこうしているうちに、オークション開始。まずはチャンピオンシップ、思ったより盛り上がらない。みんな1000HK$くらいで買い落とされていく。去年の優勝の沼沢さんですらたったの2000HK$である。気合いを入れて5万円くらい用意したのですこしずっこける。サイドイベントでがんばってしまったので、予定外につりあがって少しあせるが、なんとか2000HK$で下平さんに落としてもらう。
 半額、自分で買い戻して、国際電話をかけるために会場の外へ。彼女の声を聞いて落ち着く予定が、電話ボックスがない。不機嫌になり会場に戻る。オープンの、オークションでは相変わらず壊れた金額で皆が買い落とされていた。はっきりいってダレた。
 ようやく終わって、いよいよ1回戦。相手はアメリカの青春ドラマの悪役のような大男。彼女のプリクラにそっとキスをする。いよいよスタートだ。

つづく


Copyright(c)2003 Japanese Backgammon League. All rights reserved.