home 会報96年8月号より  ’96 モンテカルロ遠征記「モンテカルロの夜明け」 by 長谷川 俊介

 この物語は勝負の世界に生きる一人の男の記録であって、旅のエッセイでもなければ、観光ガイドでもない。 

 今年もまた、7月がやってきた。毎年この月の第二週にはモンテカルロにて、バックギャモンの世界選手権が開催される。
 モナコには空港がなく、最寄りの空港はニースになる。日本からニースへの直航便はない。従って、必ずヨーロッパの他の都市に寄航しなければならない。
 今年は、ウィーン経由で行くことにした。私の個人的な趣味であり、必然性はない。
 私にとって今年は三回目の挑戦になる。今度こそは結果を出してやるぞとばかりに自分にプレッシャーをかける。
  いつも、ニースからはタクシーでモンテカルロのアレキサンドラホテル(三つ星)に移動するのだが、今年は違う。トーナメント会場であるローズホテル(四つ星)を予約してある。大会参加者はバックギャモンレートで通常の半額程で宿泊することができる。ニースからヘリコプターで乗り付けることにした。
 ガーデンビューで予約したはずだったが、案内された部屋はオーシャンビューであった。ラッキーである。 

 大会の受付は月曜日(7/8)で、試合自体は、火曜日(7/9)から日曜日(7/14)にかけて行われる。
 しかし、世界のギャモンフリークはそんなにのんびりしていない。プレトーナメントは前週の金曜日(7/5)から始まっている。
 我々は、旅装を解いて会場へ向かう。まだ日曜日だというのに、既に世界各地から集まっている。土曜のプレトーナメントのメンバーを見る。60人以上のトーナメントが成立している。気の早い奴等だ。
 早速、日曜日のトーナメントにエントリーする。これらのプレトーナメントは無料で参加できる。ただし、勝ってもお金にはならない。スポンサー提供の時計が貰えるだけである。
 気持ち良く三連取する。大事なところで、ショットも決まるし、ランニングも負けない。まあまあ振れている。クォーターファイナル(準々決勝)で負けたが、5ポイントマッチは出目に左右され易く、ジャンケンポンに近いものがあり出目の調子を確認できただけで十分である。

 会場でマダム和子を見つける。彼女は先々週のベニスオリンピック以来ずっとこちらで転戦している。この後も来週のカンヌのトーナメントまで戦い続ける予定らしい。
 我々は再会を喜び、明日から始まるトーナメントの必勝を期するため、前祝いを兼ねた食事にいくことにした。
 ローズホテルのレストランはトンデモなく高級なのでまず利用することはない。いつも利用する町のスナック・バー"TIP.TOP.BAR"にいくことにした。
 しかし、ここモンテカルロではギャモンプレーヤーはなかなか団体行動はとれない。各人それぞれのトーナメントに参加しているので、ゲームの進行具合が皆異なる。とりあえず、暇な者だけつれていく。

 食事を終え、また、会場へと向かう。
 とりあえず”ジャックポット”にエントリーする。
 ジャックポットとはメイントーナメントとは別に並行して行われるミニトーナメントのことである。通常8人の参加者が集まり次第、随時繰り返し行われる。7ポイントマッチが基本である。賞金は、勝者一人に支給されるが、決勝に残った当事者同士で折半(セトルメントとかスプリットとかいう)することが多い。ただし、1/8は胴元のものである。
 とりあえず、300フランからだ。難無く、二人勝ち抜く。決勝はぼんやりした感じの初老の”ジョーチャン”だ。”ジョーチャン”とは”ジョージア”人のことであるが、アメリカ人ではなく、旧ソ連の”グルジア”人のことである。
 負ける気がしなかったが、1500フランと600フランに分けることにし、ゲームを始めるた。前祝いの酒に酔ったせいかアッサリ負けてしまった。
 この後、二回、ジャックポットにエントリーしたが、サッパリであった。明日があるので、無理をしないで寝ることにする。ちなみに、このギャモン会場は朝の7時まで開いている。

 翌月曜日は朝から買い出しである。近くのスーパーに行く。知った顔が数人いる。みな考えることは同じだ。ビール、ワイン、エビアン、ハム、チーズ等夜食になるものを仕入れる。
 なお、朝食については、同行の野々村氏が毎朝”カフェ・ド・ノノムラ”を開くので、心配しない。
 ちなみに、ローズホテルの朝食は三千円くらいする。

 朝食を済ませ自室でくつろいでいると電話が鳴った。
 マダム和子のボーイフレンドを気取っているエリーからドライブに誘われる。
 月曜日は大会の受け付けだけで試合は行わない。あまり乗り気ではないが、昼間はすることがないので、付き合うことにする。勿論、お邪魔虫であるが、我々が一緒でなければ彼女もいかないであろう。ひとの好意は素直に受けるもんである。
 大会のエントリーだけ先に済まる。
 大会の参加方法は、簡単なもので、当日会場で参加費を払えば事足りる。
 大会は、”チャンピオンシップ””中級戦””初級戦”の3クラスがある。
 それぞれ、参加費は異なるが、100%賞金としてペイバックされる。
 この他に、一律にレジストレーションフィーが1000フラン(約二万円)かかる。大会の運営費みたいなもので、3回のパーティ代、レビューショー、ゴルフ大会とテニス大会が含まれている。

 あとは夜の9時のウェルカムパーティまで基本的にはフリーだ。

 モンテカルロから車で十分くらいのところに、ローマ時代の遺跡がある。そこは、モナコからの観光客もニースからの観光客もあまり立ち寄らないような、マイナーな観光スポットであったが、ガイドの案内を聞いて納得した。
 その遺跡は、シーザーの息子がヨーロッパ(フランス)を征服した記念に建てたもので、その形は”トロフィー”のモデルとして知られるものであった。エリーの心憎い演出である。

           たぶん、つづく  


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