home 会報96年10月号より  ’96 モンテカルロ遠征記「ビル・ロバティの貧乏ゆすり」 by 長谷川 俊介

 水曜日は、公式戦がない。あんまりガツガツしないで、ゆったり楽しむのも大切だ。
 昼は、ゴルフかテニスのトーナメントがあり、夜は、ガラ・ディナーとレビューショーがある。これらは全部レジストレーションフィーに含まれている。
 勿論、バックギャモンを堪能したい人向きの企画はある。スーパージャックポットである。
 スーパージャックポットはジャックポットであるので、本戦とは関係なく行われる。64人限定の1000ドルのジャックポットである。
 優勝すれば、メイントーナメントの優勝程ではないが、準優勝より大きい。
 しかし、コンソレーション(敗者復活戦)はなく、一発勝負となる。参加するのは、本当の実力者と自惚れ屋くらいである。
 私は昨年一昨年と参加したが(94年10月号参照)、今年はホテル代が高いので、見送ることにした。1000ドルは子供銀行券ではない。

 ということで、ゴルフに参加した。
 マダム和子とバックギャモングッズ屋の親爺マーチンとエリーの車でモンテカルロゴルフクラブへいく。
 こちらのクラブは優雅なもので、4人で回りたいといったら、断わられてしまった。4人は人数が多すぎるというのだ、2人か3人で回れととのことだった。私は、マーチンとギリシャから来たというおっさんと3人で回ることとなった。
 クラブと靴を借り、キャディを1人連れ、マダム達より一足先に、コースに出る。
 天気がいい。地中海からの乾いた風が心地よい。コースは日本のように平らのところは少ないが、自然の起伏を生かしたなだらかな山岳コースである。
 ハーフを終えて、クラブハウスに戻る。日本では昼食の時間となるが、軽く喉を潤しただけで、すぐにプレーを再開する。本来スポーツはこうあるべきだ。
 私は最終ホールで、初めてパーをとることができた(ゴルフはこの5月にはじめたばかり)。いい思い出になった。
 クラブハウスに戻る。
 バーのカウンターにて、マーチンに勧められるまま、「シャンディ」なるものを注文する。「ゴルフの後はこれに限る。」みたいなことをいう。ビールのジンジャエール割りであった。
 すっっっごくうまかった。フランス人はビールよりもワインが好きなためか、こっちに来てから、旨いビールに出会うことがなかったせいもある。
 一息ついていると、聞きなれた、カラカラという音がする。
 テラスで、エリーと葉巻のおっちゃんがバックギャモンをしているではないか。
 確か、エリーの組は我々より後ろだったはずだが。聞けば、ハーフでギブアップし、今、カズコ一人で回っているとのことである。

 夜は、”スポーツクラブ”でガラ・ディナーである。
 ここはF1グランプリの前夜祭など催されるモンテカルロ髄一の会場である。
 このパーティには、皆着飾ってくる。ノータイ、短パン、ジーパンでは入れない。
 ドーム型の屋根が日没とともに開き、星空の下での食事となる。フランス料理のフルコースが運ばれてくる。
 2時間ほどかけ、ゆったり食事する。11時を過ぎたころやっとデザートとなる。さあ、ショータイムだ。
 2人の歌姫と2人の男性ダンサーを中心に、30人ほどの踊り娘によるレビューショーである。日本ならこれだけで十分レジストレーションフィーより高い入場料がとれるであろう。
 昼間のゴルフで疲れたせいか、この夜は早々(といっても深夜の2時過ぎ)に寝る。

 明くる木曜日。カフェ・ド・ノノムラにてブランチをとり、開場時間まで、屋上のプールでくつろぐ。
 いつもの帆船が見える。

 4時、会場の掲示板を確認する。火曜には4枚あったトーナメント表が1枚にまとまっている。ベスト64まできた。
 最初の相手は知らない名前だ。しかし、次の相手はよく知っている。バックギャモン界で最も有名な男、ビル・ロバティだ。
 氏とは毎年、ここモンテカルロにて挨拶をかわす程度の間柄だったが、去年、ジャパンオープンに招待したおりに、東京見物に付き合うなど親交を深めている。
 さらに勝つと、明日は篠氏となる。
 彼は日本人初のプロプレーヤーと呼べる人物で、10年以上前から海外遠征を繰り返している。現在はロンドン在住である。
 今日は19ポイントマッチだ。
 指定の席につく。隣にロバティ氏がくる。
 私の相手はどこかしょぼくれたおっさんだった。取りあえず、6時前に葬る。

 8時過ぎ。やっとロバティ達のマッチが終わる。すぐ始めようと申し出たが、食事がしたい、2時間待ってくれ、というので、1時間15分に値切り、私も食事することにした。言いなりになるのはよくない。駆け引きはすでに始まっているのだ。

 マッチを始める。第1ゲームから会場中で最も多くのギャラリーを集める。ロバティ専属の記者兼カメラマンもいる。
 3ー1から6連敗して3ー9となる。
 王位戦の悪夢が甦る。10点になったらブレイクをとるつもりだった。ギャモン負けで、3ー11となってしまった。
 長めのブレイクをとる。
 ロングレンジのポイントマッチでは、ブレイク(休憩)をとるタイミングが決め手となることがある。
 再開後、また、パスさせられる。
 気を取り直し、何とか12ー14まで盛り返したが、さらに3連敗で12ー18とクロフォードなる。
 これをギャモン勝ちでしのぎ、マッチまで後5点。ふつう3連勝必要だ。
 まず、キューブを渡す。ロバティも定石通り、マイナースプリットでくる。私はテンポムーブからブリッツに入る。激戦の末なんとか、ツーメンシャットアウトに持ち込む。ギャモン勝ちで、次がラストゲームとなるはずだった。
 ロバティはダンスを続ける。ギャラリーは沈黙を守っている。残り8枚、ゾロ目だ。迷わず4枚上がる。さらにゾロ目を出し、バックギャモン勝ちとなり、マッチを拾うことができた。ギャラリーの惜しみない拍手が心地好い。
 ジャパンオープン以来、ロバティには負けなしの3連勝だ。

                   まだ、つづく


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