水曜日は、公式戦がない。あんまりガツガツしないで、ゆったり楽しむのも大切だ。
昼は、ゴルフかテニスのトーナメントがあり、夜は、ガラ・ディナーとレビューショーがある。これらは全部レジストレーションフィーに含まれている。
勿論、バックギャモンを堪能したい人向きの企画はある。スーパージャックポットである。
スーパージャックポットはジャックポットであるので、本戦とは関係なく行われる。64人限定の1000ドルのジャックポットである。
優勝すれば、メイントーナメントの優勝程ではないが、準優勝より大きい。
しかし、コンソレーション(敗者復活戦)はなく、一発勝負となる。参加するのは、本当の実力者と自惚れ屋くらいである。
私は昨年一昨年と参加したが(94年10月号参照)、今年はホテル代が高いので、見送ることにした。1000ドルは子供銀行券ではない。
ということで、ゴルフに参加した。
マダム和子とバックギャモングッズ屋の親爺マーチンとエリーの車でモンテカルロゴルフクラブへいく。
こちらのクラブは優雅なもので、4人で回りたいといったら、断わられてしまった。4人は人数が多すぎるというのだ、2人か3人で回れととのことだった。私は、マーチンとギリシャから来たというおっさんと3人で回ることとなった。
クラブと靴を借り、キャディを1人連れ、マダム達より一足先に、コースに出る。
天気がいい。地中海からの乾いた風が心地よい。コースは日本のように平らのところは少ないが、自然の起伏を生かしたなだらかな山岳コースである。
ハーフを終えて、クラブハウスに戻る。日本では昼食の時間となるが、軽く喉を潤しただけで、すぐにプレーを再開する。本来スポーツはこうあるべきだ。
私は最終ホールで、初めてパーをとることができた(ゴルフはこの5月にはじめたばかり)。いい思い出になった。
クラブハウスに戻る。
バーのカウンターにて、マーチンに勧められるまま、「シャンディ」なるものを注文する。「ゴルフの後はこれに限る。」みたいなことをいう。ビールのジンジャエール割りであった。
すっっっごくうまかった。フランス人はビールよりもワインが好きなためか、こっちに来てから、旨いビールに出会うことがなかったせいもある。
一息ついていると、聞きなれた、カラカラという音がする。
テラスで、エリーと葉巻のおっちゃんがバックギャモンをしているではないか。
確か、エリーの組は我々より後ろだったはずだが。聞けば、ハーフでギブアップし、今、カズコ一人で回っているとのことである。
夜は、”スポーツクラブ”でガラ・ディナーである。
ここはF1グランプリの前夜祭など催されるモンテカルロ髄一の会場である。
このパーティには、皆着飾ってくる。ノータイ、短パン、ジーパンでは入れない。
ドーム型の屋根が日没とともに開き、星空の下での食事となる。フランス料理のフルコースが運ばれてくる。
2時間ほどかけ、ゆったり食事する。11時を過ぎたころやっとデザートとなる。さあ、ショータイムだ。
2人の歌姫と2人の男性ダンサーを中心に、30人ほどの踊り娘によるレビューショーである。日本ならこれだけで十分レジストレーションフィーより高い入場料がとれるであろう。
昼間のゴルフで疲れたせいか、この夜は早々(といっても深夜の2時過ぎ)に寝る。
明くる木曜日。カフェ・ド・ノノムラにてブランチをとり、開場時間まで、屋上のプールでくつろぐ。
いつもの帆船が見える。
4時、会場の掲示板を確認する。火曜には4枚あったトーナメント表が1枚にまとまっている。ベスト64まできた。
最初の相手は知らない名前だ。しかし、次の相手はよく知っている。バックギャモン界で最も有名な男、ビル・ロバティだ。
氏とは毎年、ここモンテカルロにて挨拶をかわす程度の間柄だったが、去年、ジャパンオープンに招待したおりに、東京見物に付き合うなど親交を深めている。
さらに勝つと、明日は篠氏となる。
彼は日本人初のプロプレーヤーと呼べる人物で、10年以上前から海外遠征を繰り返している。現在はロンドン在住である。
今日は19ポイントマッチだ。
指定の席につく。隣にロバティ氏がくる。
私の相手はどこかしょぼくれたおっさんだった。取りあえず、6時前に葬る。
8時過ぎ。やっとロバティ達のマッチが終わる。すぐ始めようと申し出たが、食事がしたい、2時間待ってくれ、というので、1時間15分に値切り、私も食事することにした。言いなりになるのはよくない。駆け引きはすでに始まっているのだ。
マッチを始める。第1ゲームから会場中で最も多くのギャラリーを集める。ロバティ専属の記者兼カメラマンもいる。
3ー1から6連敗して3ー9となる。
王位戦の悪夢が甦る。10点になったらブレイクをとるつもりだった。ギャモン負けで、3ー11となってしまった。
長めのブレイクをとる。
ロングレンジのポイントマッチでは、ブレイク(休憩)をとるタイミングが決め手となることがある。
再開後、また、パスさせられる。
気を取り直し、何とか12ー14まで盛り返したが、さらに3連敗で12ー18とクロフォードなる。
これをギャモン勝ちでしのぎ、マッチまで後5点。ふつう3連勝必要だ。
まず、キューブを渡す。ロバティも定石通り、マイナースプリットでくる。私はテンポムーブからブリッツに入る。激戦の末なんとか、ツーメンシャットアウトに持ち込む。ギャモン勝ちで、次がラストゲームとなるはずだった。
ロバティはダンスを続ける。ギャラリーは沈黙を守っている。残り8枚、ゾロ目だ。迷わず4枚上がる。さらにゾロ目を出し、バックギャモン勝ちとなり、マッチを拾うことができた。ギャラリーの惜しみない拍手が心地好い。
ジャパンオープン以来、ロバティには負けなしの3連勝だ。
まだ、つづく