昨年12月の初開催から約1年。2025年11月19日、東京・中野にある「東京コミュニティスクール(以下 TCS)」を再訪し、第2回目となるバックギャモン授業を実施しました。
TCSは、2004年に設立された、小学生と幼児を対象とする全日制のマイクロスクールです。創立者の久保一之氏が、日本の小学校には公教育以外の選択肢があまりに少ないという課題意識から設立した同校は、今年で22年目を迎えました。「自分らしさを活かし、人や社会や自然との和(つながり)を楽しみ、ともに学び着実に成長する」という「自和自和(じわじわ)」を教育理念に掲げ、短期的な成果よりも、生涯を通じて使える「学ぶ力」をじっくりと育むことを重視しています。こうしたTCSの学習現場において、算数の教材として長年バックギャモンが活用されてきました。確率論やリスク管理、そして不確定要素への対応力が求められるバックギャモンは、同校が目指す思考力と応用力を鍛えるプログラムと極めて相性が良いと言えます。

今回の授業は、こうした力をさらに育むべく、実戦的な戦術に加え、「考える楽しさ」を伝えることを目的としました。本レポートでは、1・2年生、3・4年生、5・6年生の2学年ごとに実施した、各90分の授業内容について報告します。
■ 授業の構成
90分授業は以下のような構成で進めました。

3年生以上については、基本ルールがひと通り理解できているという前提で、短時間でおさらいするだけにしました。一方、1年生は前回の授業を受けていないことを考慮し、初期配置から基本ルールまでしっかりと指導する時間を取りました。また、前回十分に時間を割けなかったダイスの振り方やマナーについては全学年に指導しました。その後、「達人に教わろう」という20分程度のセクションで戦術的な指導を実施しました。残った時間は、自由対局の時間としました。
授業を楽しんでもらうための工夫として、今回は教材制作に力を入れました。他校の授業でも実績のあるA6サイズのインストカードの表面にはゴールの向きに合わせた2パターンの初期配置と進行方向が描かれており、困ったときにチラッと見ることでゴールや進行方向に迷うことがなくなります。これは特に低学年の児童に有効でした。
あわせて配布した小冊子「バックギャモン虎の巻」には、あえて高度な内容を盛り込み、子どもたちの知的好奇心を刺激するよう工夫しました。家に持ち帰って、次回の授業までに理解を深めてくれることを期待しています。

「達人(Tatsujin)クラス」は、その道のプロフェッショナルが直接指導し、本物に触れる機会を子どもたちに提供するTCS独自の特別プログラムです。過去には、将棋の達人、写真の達人、雅楽の達人、お茶の達人、ハンググライダーの達人、カポエイラの達人など、多岐にわたる分野で達人クラスが実施されてきました。今回のバックギャモン授業では、「達人に教わろう」という発展的なセクションを達人クラスとして、元日本選手権者であり日本トップクラスの実力を持つ日野雄之さんに「虎の巻」の内容をベースとした戦術指導を行ってもらいました。特に5・6年生には、「確率を使う」という高度な内容を解説してもらいましたが、日野さんの論理的かつ噛み砕いた説明は子どもたちにも分かりやすく、ゲームへの理解が一層深まった手応えを感じました。

■ 授業の様子
1・2年生のクラスは、戦術面ではまだまだこれからといった段階でしたが、その分エネルギーに溢れていました。良い目が出ると歓声が上がり、ゾロ目が出れば教室中が大盛り上がり。終了の合図をしても「もっとしたい!」「あと5分だけ!」と懇願する児童が何人もおり、バックギャモンというゲーム本来の面白さがしっかりと伝わっていることを実感しました。
また、1・2年生には、講師同士のエキシビションマッチを前半だけ見てもらいました。これは、試合の流れや正しい所作を理解してもらうだけでなく、しっかり考えてからコマを動かすという一連の動きを見せるためでもあります。そして、チョイスがある局面で「これはどう動かすのがいい?」と問いかけると、自然と子どもたちの間で議論が巻き起こりました。ほかの人の考えを「見て学ぶ」ことが、特に低学年向けの指導において極めて効果的であることを改めて確認しました。

3・4年生のクラスは、ルールの理解が定着していることもあり、より真剣な勝負の場となりました。中には試合に負けそうになって悔しさのあまり泣き出してしまったりする児童もいましたが、講師の日野さんは「それはバックギャモンを単なる遊びではなく、真剣な勝負として捉えている証拠。そういう子にこそ、しっかりと技術を教えたい」と授業後に語っていました。悔し涙は、彼らが本気で向き合っている何よりの証です。

5・6年生は高学年らしく落ち着いた雰囲気で、高度な質問も次々と飛び出しました。「どうすれば勝てるか」という点に関心が向いており、達人による戦術解説に真剣に聞き入り、それを実戦で試そうとする姿も見られました。ゲームの進行も早く、試行錯誤しながらも自分の頭で考えて手を指す姿からは、バックギャモンを運だけのゲームではなく、知的な競技として楽しんでいる様子がうかがえました。

■ おわりに
今回のTCSでの授業は、達人講師による指導や新しい教材の導入など、意欲的な試みを取り入れた回となりました。子どもたちの反応からは、バックギャモンが論理的思考力だけでなく、感情のコントロールや勝負への向き合い方を育む優れた教育ツールであることが再確認できました。
次回は今年度の総仕上げとして、バックギャモン大会を予定しています。配布した「虎の巻」を読み込んだ子どもたちが、次回どのような成長を見せてくれるのか、今から楽しみです。子どもたちが見せる真剣な眼差しは、日本バックギャモン協会が推し進める教育普及活動において、大きな希望となっています。
日本バックギャモン協会は、今後も教育現場との連携を深め、バックギャモンを通じた教育普及活動に取り組んでまいります。当協会では、教育機関・企業・各種団体を対象に、出張授業や講演会、講習会を開催しております。ご興味のある方は当協会(support@backgammon.or.jp)までお気軽にお問い合わせください。















































